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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

奥さんの嘆き

                      ≪十月二十日≫  ―壱―


  暖房が効かない部屋で目を覚ました。
 とにかく、部屋を出なくては・・・・。
 日が差し込んでいるのやら、闇が広がっているままなのか、皆目見当の付 
 かない部屋なのだ。
 それでもこの部屋は、60DR(480円)。
 もっと安い部屋になると、ベッドも何もなく、居間らしきところで、ただ 
 雑魚ねするだけと言うのもあるらしい。

  これでも、屋根があるだけましと言うものであろうか。
 ベッドから床への生活に変えれば、一日分の宿泊費が浮くと言う計算にな 
 る。
 しかしこの欠点は、荷物の保管んだ。
 自分の荷物は自分で管理しなさいと言う状況に置かれてしまう。

   それにしても、サービスと言う名目を無視さえすれば、こんなにも安 
 くなるのだ。
 日本人は、このサービスと言うやつに、慣れ親しんでしまった。
 自分がなすべきこと、自分の自己責任さえも、見失ってしまったのではな 
 かろうか。

   私が通過してきた国では、自動車事故で人を死なせた場合でも、数万 
 円の罰金だけで済むと言う。
 それは、こうである。
 猛スピードで車が走っている広い道路を、歩く人は十分注意するべきだ  
 し、撥ねられるかも知れないと言う、警戒心を常にもって居なければなら 
 ないと言うことが当たり前だと言うわけだ。

   それなのに、車に撥ねられたと言うことは、撥ねられた人にも過失が 
 あると言うことになるのだ。
 どこかの国のように、子供が水路に足を滑らせて死んだから、補償金をく 
 れと言う馬鹿な論理がまかり通ってしまう。
 権利とか、社会保障の元に、人はどんどん退化していっているように思え 
 てならないのは、俺だけの思い違いだろうか。


                     *

   B&Bと言う名前のとおり、久しぶりの昼食を取る事にした。
 朝のコーヒーと言うやつには、トンと縁のなかった生活を強いられていた 
 わけで、なんとも爽やかな朝を迎えようとしている。
 ここの朝食の良い所は、宿泊者全員がテーブルに着けることだろう。
 昼間、トランプをしたりしている大きなテーブルに、パンが満載されたバ 
 スケットが置かれている。
 もちろん、コーヒーも欲しいだけ飲めるのだ。

   この日の朝も、ラッシュだった。
 朝起きるのが遅ければ、座る椅子もなく、立ったままでの食事となる。
 日本のように、黙って食べ、食べ終わるとさっさとテーブルを離れると言 
 うのとはちがい、楽しい団欒の朝食となるため、いつまでたっても椅子は 
 塞がったまま。

   寝坊をした俺は、やっとのことで椅子を確保。
 パンとコーヒーにありついた。
 仲間も皆椅子を確保しているようだ。
 ここでも日本人女性は、モテモテだ。
 大味な毛唐の女と違って、玲子ちゃんはチャーミングなのだ。
 彼女を中心に、笑い声が弾んでいる。

   24日の閉会式まで、まだ四日ある。
 食事を済ませて、足は考古学博物館へと向った。
 会長は、出版社からの依頼の原稿作成で、昼間はほとんどホテルに缶詰状 
 態らしい。
 奥さんはと言えば、新太郎君は小さい為、世話に大わらわ。

      奥さん「私は・・・・ギリシャまで、何しに来たんだろ             
         う・・・。」

   そう嘆いているとか。
 それをいち早く察した玲子ちゃんは、宿を我々のところに鞍替えしてきた 
 のだ。
 近くに居れば、子供の世話を手伝わされてしまう。
 それでは、ギリシャへ来た意味がないと言う訳だ。
 そして、あの四人組は・・・相変わらず知ってか知らずか、アテネの街を 
 闊歩しているようだ。

                       *

   オモニア広場を経由して、考古学博物館へ向う。
 博物館の前にある広場には、観光バスが数台見えるだけで、人通りはまば 
 らだった。
 ところが、館内に入ると、さすがに人息でむんむんしている。
 ここでもIDカードが役に立ち、入場料は5DR(40円)ですんだ。
 木曜日と日曜日は無料だとのこと。

   館内は広いが、案内らしきものは少ない。
 館内の見取り図が分かるくらいの、パンフレットか何か持って行った方が 
 良い様だ。
 俺は幸い、H君からイランで貰ったガイドブックがあったので、見過ごすこ 
 となく、館内を十分に見て回れた。

   とにかく、おびただしい数の彫刻・工芸品・美術品だ。
 のんびり見て回ろうと思ったら、一日がかりじゃ無理と言うもの。
 装飾品・壺・大きな大理石の彫刻・絵画。
 それは圧倒されんばかりの数と見事さだ。
 学生時代の教科書の写真に載っていたものを見つけた日には、感激してし 
 まう自分が居る。

   とにかく今日は、全部一通り見て回るのが目的だったので、一箇所に 
 五分とは居なかったけど、それでも館を出る頃には、時計は三時をとっく 
 に過ぎていた。
 疲れどっと出てきた。
 空気が悪かったのか、疲れが酷く、後はどこへも行く気がしなく、そのま 
 まオモニア・シンタグマ広場と歩いて、ジョセフ・ハウスへと真っ直ぐ帰 
 途についていた。

   部屋に戻ると、仲間たちがもう食事の用意を始めている。
 今日は新たに、日本人が二人加わっていて、明日アテネを発つというの  
 で、彼らの送別会となってしまった。
 今日のメニューは、大きなステーキとジャガイモ、トマト、パン、そして 
 ワイン。
 盛大な夕食会となった。


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